11月の投稿テーマ「高齢者の運転 どう思う?」には、79通の回答が寄せられ、高齢ドライバーにはある程度の制限が必要とする意見が多数を占めた。
ただ、公共交通機関があまり整備されていない地域では「高齢でも運転しないことには生活に支障が出る」という切実な声もあった。
他に“足”ない…地方で切実
運転者の世代別に死亡事故件数を見ると、30歳代から60歳代までは1万人当たり0・6件で推移しているのに対し、70〜74歳は1・0件、75〜79歳は1・6件、80〜84歳は2・3件、85歳以上では4・2件だった(警察庁、2005年)。今回の質問は、この現状を踏まえて設定した。
まず問1では、高齢を理由に運転を控えているかを聞いた。控えている(家族などに控えるよう言っている)という回答が半数を占めた。
神奈川県小田原市の無職大木時江さん(72)は60歳の時から、雨天の日や夜の運転、また遠距離の運転はしていないという。さらに「他人はなるべく乗せない」と慎重だ。
多かったのは家族に控えさせているケース。島根県東出雲町の女性会社員(30)は「雪深い山里に住む84歳の祖父がなるべく運転しないように、近くに住む伯母らが代わりに運転している」と寄せてきた。千葉県館山市の主婦(40)は、過疎地に住む義父(82)が事故を起こしてしまったため、運転をやめてもらった。「9か月間に3回。人身事故ではなかったのが救い。主人がやめるよう伝えました」
高齢ドライバーによる事故を防ぐ対策を尋ねた問2では、運転に何らかの制限を求める声が大半で、回答は「一定の年齢になったら試験や講習を行う」「免許を取り消す」の順で多かった。
茨城県つくば市の無職臼井清次郎さん(86)は「運転技術には個人差があり、免許取り消しには反対」として、「試験・講習」派。これに対し、「取り消し」派には、高齢者が運転する車で実際に危険な思いをしたという人が多かった。千葉県木更津市の自営業男性(56)は、〈1〉70歳で適性検査を実施〈2〉75歳で再試験をして不合格なら免許取り消し〈3〉80歳で無条件で免許返納にすべきだ――という具体案を提示してくれた。
一方で「高齢でも運転を控えない」という人も3割近くいた。横浜市の無職大塚登さん(71)は「60歳の時から毎日、階段のある公園で2時間かけ、1万歩歩いて足腰を鍛えている。運転には自信がある」と話す。「運転を控えるとかえって技術が落ちる」など、意気盛んな声もあった。
また、地方では運転は欠かせないとの声もあった。栃木県真岡市の主婦(82)は20年前に免許を取った。87歳の夫は免許を持っていない。「市の中心部まで遠く、車を取り上げられたら何もできない」と切実。このため、事故対策でも、運転の制限ではなく、公共交通機関の整備を求める声も寄せられた。前出の東出雲町の女性は「自分で運転しないで済むシステムが、特に地方では必要」と指摘する。
判断力訓練、開発中 認知力検査、導入へ
高齢者の運転を支援する取り組みが始まっている。
技術面からの支援を目指す日本自動車研究所(茨城県つくば市)は、高齢者の運転特性を調べるために研究会を発足させ、全国の60〜88歳までのドライバー約100人を対象に、昨年度まで2年間にわたってアンケートを実施した。加齢による機能低下を補うため運転中に心がけていることを尋ねた内容で、25〜59歳の約100人と比べた。
その結果、〈1〉運転中にオーディオを操作するなど、二つのことを同時にしない〈2〉狭い、よく知らないといった、運転に負荷のかかる道路の選択を避ける〈3〉左折でバイクが入り込まないように左側に寄せるなど、ほかの車への対応を少なくする――など七つの特性が浮かび上がった。
同会の責任者だった産業技術総合研究所(同)の赤松幹之(もとゆき)さんは「高齢者は、とっさの判断や対応が少なくてすむ運転をする特性がある。負荷の低いルートを選ぶカーナビを開発することも考えられる」と話す。
また、日本自動車工業会(東京)は2008年3月を目標に、認知能力や判断力など、運転の前提となる能力の維持を目的とした教育プログラムを開発中だ。同工業会交通統括部では「技術面で不十分な点をこのプログラムで補っていければ」と話す。
現行の道路交通法では70歳以上になると、運転免許の更新が5年ごとから3年ごと(70歳での更新のみ4年)になり、更新のたびに高齢者講習を受けるよう義務付けている。警察庁はさらに、高齢ドライバーに対して、記憶力や判断力などの認知機能が低下していないか調べる検査を義務づけるため、来年、道交法の改正を目指している。認知機能が衰えている人に安全教育を行う方針だ。
[記者から] 地方に暮らす77歳の父は今なお、車のハンドルを握っている。でも「控えた方がいい」とはなかなか言えない。スーパーなどがある町の中心部は家から遠く、母や祖母も一緒に住むが、父以外に免許を持っていないからだ。
記者自身、この夏まで地方勤務をしており、東京と違って取材先には車を運転して出かけることが多かった。今回の投書を読み、改めて切実な事情を思い起こした。
高齢ドライバーの事故が多いからと言って、年齢による一律の制限をしてしまっては、とても立ちゆかないと思う。できるだけ多くの人が利便性を感じられる自動車社会を目指すため、みんなで知恵を絞る必要があると痛感している。(西内高志)
(2006年11月22日 読売新聞)